無人駅で降りて、歩いてみる。10年ほど前に、そんな旅を結婚前の夫としたことを思い出す。何も情報を見ずに歩いてみると、その時は名前もよく知らなかったダム湖でカヌーをしている人がいたり、小さな集落の中に美しい石畳の小道があったり、ちょっとした冒険感に満ちていた。何年も経った後、その同じ駅に、このプロジェクトで関わることになった。
当時は降りる人がほぼおらず、駅の待合室も古びて経年による汚れが目立っていた。しかし最近では、名もない駅で降りて集落散歩をしてみたり、という旅のあり方も、一定層に定着しつつある。実証実験の際は、クライアントの呼びかけにより、あっという間に地域の人が集まって駅はピカピカになった。外からやってきて何かに挑戦しようとする人たちを寛大に受け入れ、面白がってくれる。そんな奥多摩の人たちの”江戸っ子気質”には、取材でも助けられ、このプロジェクト全体も支えられていると感じることが多い。名もない無人駅は、たくさんの人に降りてもらう必要はない。ただ、本当にこの地域と人が好きになって、時々思い出し帰るように通ってくれる人、地域を愛で、大切に思ってくれる人が一人でも増えるように、格好つけたり過剰なパッケージをしたりせず、地域のありのままを見せ、その良さがありのままに伝わるようなクリエイティブを考えていきたい。
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2020年からクリエイティブを担当する「沿線まるごとホテル」プロジェクトの第一弾。無人駅をフロントとして、沿線全体をホテルに見立てた世界観を創り出す試み。「白丸駅」の待合室にホテルのレセプション空間を創り出し、沿線の魅力がつまった旅のしおりやポスターなど、言葉とビジュアルで「沿線まるごと」の世界観を伝えた。
Ensen Marugoto Hotel Project
2020 Okutama, Tokyo
Client. Ensenmarugoto Co.,Ltd.
Creative Direction
& Graphic Design & Copywriting. Naoko Tatsumi
Space Design. Sho Nishihara / sna
Photograph. Daisuke Takashige
Web Design. Naoko tatsumi
https://marugotohotel-omeline.com